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秋山弘子先生/社会とのつながりが、豊かなセカンドライフへ

長寿社会が現実のものとなった最近の日本では、介護や「老後」の考え方もこれまでとは違ってきています。自分らしさを大切にしながら心身ともに健康に長生きしていくためには、社会とつながりを持ち自立して過ごすことがポイントになりそうです。そのためのヒントを、東京大学高齢社会総合研究機構特任教授の秋山弘子先生にうかがいました。
秋山弘子先生

―シニアを取り巻く今の状況について教えてください

超高齢社会といわれる中、さまざまな不安があるかもしれません。しかし、日本の高齢者約6000人の生活を25年間にわたって追跡している調査によると、高齢者の約8割は、自分で生活できる人です。しかも、2002年に75歳の人は、1992年の64歳と同じ速度で歩いていることが分かりました。今の高齢者は昔より元気になっているのですね。

一方で、高齢者問題というと、かつては農村部をイメージしましたが、現在は都市部周辺に大きな課題があります。高度経済成長期に仕事を求めて移住した世代が、一斉にリタイアする時期に来ているのです。

―心身ともに長く健康に過ごすには何が重要でしょうか

1987年に、私たち東京大学高齢社会総合研究機構は東京都健康長寿医療センター、ミシガン大学などの老年学研究者と共に全国高齢者調査を始めました。無作為に選んだ60歳以上の約6000人が対象で、体や心の健康、経済状態、家族や友人との人間関係など、3年ごとに、同じ人に同じ質問をしています。

その結果、75歳頃から、健康を維持する人と自立を失っていく人に分かれていくことが分かりました。その違いは、社会とのつながりを持っているかどうか。特に男性はリタイア前から、趣味や自治会など、仕事以外に社会とつながりを持っていた人ほど健康を維持しています。

会社の肩書から離れて、水平な人間関係に慣れているかどうか。都市部やベッドタウンで年を取ると、男性にとっては高いハードルになりがちなのです。女性も社会進出が進めば同じことがいえるかもしれません。

秋山弘子先生

―社会や人とのつながりが欠かせないのですね

老後の備えとしてみても、健康や貯金と同様に、人とのつながりは努力してつくらないとできないものです。

千葉県柏市では、私たち東京大学高齢社会総合研究機構と、同市、UR都市機構の3者でセカンドライフの就労支援を行っています。都会で働いてきた人は元気であっても、住む街に知り合いがおらず、リタイア後閉じこもりがちなのです。そして今の60~70代は就労意欲が高いとはいえ、満員電車に揺られての通勤は長くはできない。

そこで地域のなかに、農業や植物工場、学童保育、コミュニティー食堂など、リタイア後の仕事場をつくりました。体や家庭の事情に応じて数時間勤務でもよく、そのかわり交代制なので、事業としての効率も良いのです。

最前線で仕事をしてきた方々ですから、それぞれ専門分野を生かして働き、少額とはいえ収入が得られます。仕事を通して、職場や地域とのつながりができるのが何より大きいですね。街の課題やチャンスも分かり、自分で休耕地を借りて起業する人も出てきています。

―つながりを持ち続けていくために、一人ひとり何ができるでしょうか

例えば住民全員が1カ月に1時間、住んでいる街のために働くという運動を盛り上げてほしい。大々的にやるばかりではなく、毎週15分、近所の草刈りをするのでもいいし、通勤・通学中に一人暮らしのお年寄りに声を掛けるなど、自分ができる範囲でいいのです。それだけで街が変わりますし、コミュニティーにつながりができて孤独・孤立の問題も減るでしょう。私は行政にも提言していますし、各地でそんな取り組みが増えるといいですね。

―最後に、シニア世代に向けたアドバイスをお願いします

かつて人生50年、60年という時代が長く続きました。今は人生90年と考えると、定年後に30年という時間があります。もはや「余生」ではなく「セカンドライフ」―まさに2度目の人生を過ごすことになります。その人生をどのようにデザインしていくのか、そんなチャンスは私たちの親、祖父母の世代にはなかったものです。

セカンドライフをよりよく生きるには、「働く」「学ぶ」「遊ぶ」「休む」。この4つをうまく組み合わせるのがポイントです。初めのうちは働くことを中心にして、次第に関心のある勉強に割く時間を増やしたり、体力の変化に応じて休む時間を増やしたりと、柔軟に決めていってください。それこそが豊かな人生につながるのではないでしょうか。

秋山 弘子先生 東京大学 高齢社会総合研究機構 特任教授
米・国立老化研究機構フェロー、ミシガン大学社会科学総合研究所研究教授、東京大学大学院人文社会系研究科教授(社会心理学)などを経て2006年から東京大学高齢社会総合研究機構特任教授。ジェロントロジー(老年学)を専門に、25年にわたる全国高齢者調査を行うほか、超高齢社会のニーズに対応するまちづくりにも取り組む。